運動好きを育てる2歳頃の工夫

 

 

身体を動かすことが好き、もしくは面倒臭がらないことはものすごく大切なことである。なぜなら、何かを知るということは身体を通して行われることだからだ。特に幼児期はそうである。身体を動かすことというのは決してスポーツのことではない。お部屋の片付けでも、お皿洗いでも、絵本室に絵本を取りに行くことでも構わない。とにかく私たちは身体を動かさない限り生きられない。なのに、現代人は怠惰だ。身体を動かさないためなら、あらゆる開発を惜しまない。掃除機でも、食洗機でも、古くは炊飯器でも、身体的な負担を軽くするために発明は行われている気さえしてしまう。

 

さて、これは私の経験からの完全なる私見なのだが、身体を動かすことが好きな人になっていくポイントは2〜3歳頃の経験が大きい。4歳児の後半頃になると自我がはっきりしてきて、他の子と比べたり、苦手意識を持ち始める子も中にはいる。そうなると、動く量が減るので、成功する体験が相対的に減り、失敗が増えることになる。それでも関係なく動ける子は対応の仕方があるのだが、多くの運動が上手ではない園児は5歳頃になると運動量を減らし始める。だから、2〜3歳くらいで運動量を確保するとともに、いろいろな動きを繰り返し経験して起きたい。

 

大事にしたいことは2つあると思っている。1つは「周囲との身体を通した親和性を高める」ということ。とにかく、身体を使って周りの世界と触れ合うことだ。バーチャルの世界は可能な限り排除して、土・水・風・火・木・葉・草・動物・昆虫・魚etcなど、太古の昔から地球上に存在するあらゆるものに触れ、遊び、食べる経験を繰り返し重ねたい。そうすることで世界を「知る」ことができる。「知る」というのは知識(情報)だと思っている人が多いが、情報にも2種類の情報がある。1つは物質的世界が固有に持っている情報。例えば、胸くらいの高さの平らな場所があれば、そこにものを置いたり、そこに紙を置いて文字を書いたりすることが可能である。私たちの周りにある事物からはそういう「情報」が発せられている。心理学者ギブソンが「アフォーダンス」と呼んだもの関連する話である。もう1つの情報は加工された二次情報である。ネットや本になっている情報(文字、音、記号、絵画など)は全て二次情報である。小さいうちには一次情報である物理的な情報と出会うことが世界を知ることになる。だから、身体を動かすことが大事なのだ。そして、心地よいもの、心地悪いものを含めて、身体感覚として周りを知ることが第一歩である。リンゴの硬さとか、コンクリートの硬さとか、土の温もりと冷たさとか、そういうことを身体感覚として知っておきたい。

 

身体を動かすことが好きな人になる2つ目のポイントは「周りにある『もの』とつながる」ことである。一番わかりやすいのは「道具」とつながることだろうか。道具とうまくつながれたら、その後の遊びや活動と密接に関わることになる。道具とつながるというのは、上手に使えるようになるということであるが、最初から上手である必要はない。嫌いにならないことの方が大切である。生活の中で使うスプーンやフォーク、さらには箸や茶碗、外で使う三輪車やスコップ、バケツなど、いろいろな道具と出会い、それを次第に使えるようになること。その先には、道具を通じてしか出会えない世界がある。三輪車の向こうにはキックバイクや自転車があるが、そこにはスピードの世界がある。スコップなどの道具を思ったように操れると砂場の中に自分だけの世界を構造化することができる。さらには友達と相談して一緒に作ったり、先生に新しい道具を要求したりして楽しいコミュニケーションの世界にも出会えるはずだ。


このように、身体が使えるようになる、身体を動かすことが好きということは、単に運動が上手というレベルの話では決してとどまらない話であり、2〜3歳ころに、上記のような工夫をしておきたいのだ。

 

 

ちなみに、特に私が遊びの時にお勧めしている「もの」はすずらんテープや新聞紙などのヒラヒラとしたものである。本来の使い方とは違うかもしれないが、このヒラヒラするという特性を活かして、子どもにとっては怖がることなくつながることができ、縦横に遊ぶことが可能である。これを細かくしても良いし、長細くしても良いが、それを追いかけたり、尻尾とりのしっぽにしたりすることで子どもたちの運動量を格段に高めることができるし、子どもたちは飽きることなくひたすらに追いかけ続ける。片づけすらも遊びになるような道具である。ぜひお試しいただきたい。

保育者支援ネットワーク「保育のみかた」運営責任者

博士(教育学)

保育コンサルタント

園庭づくりコーディネーター

[著書]

『ワクワクドキドキ園庭づくり』(ぎょうせい)

『遊びの復権』(共著)(おうみ学術出版会)

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