動きを観る、環境を観る

フレームによって言語化の仕方は異なる。事実は言語に収まらないほど豊かなのです。

 

 

 

音声は最下部に貼り付けてあります♪
キーワード 言語化・フレーム・観察
 
(1)前提の話
 
ドキュメンテーションという言葉もあるが、大豆生田先生のご著書『保育ドキュメンテーションのすすめ』では、レッジョ・エミリアで用いられている体系的なものをドキュメンテーションと呼ぶそうなので、安易には使わないことにしておいた方が良い。
 
ここでは、「言語化」と呼ぶことにする。保育記録を残す、園だよりを作る、週案、月案を作る、など日頃の保育実践を文字にすることをまとめて「言語化」と(ひとまず)呼ぶことにします。
 
言語化は限定しないとできない。起こっている現象の全てを言語にすることは不可能。所詮言語ですから。だけど、言語にしないと他者には伝わらない。そこに言語化の難しさの根源があるのではないか。
 
(2)言語化のプロセス
 
具体的な現象をどう理解するか。そのためにはフレームがいる。フレームとは、起こっている現象を言語化するために切り取るための枠組みのこと。例えば、写真を撮るときに、お花だけを撮るのか、木全体を撮るのか、森全体を撮るのか、みたいな射程を変えて撮影することが可能である。そういう枠組みのこと。
 
例えとして、ここでは桃太郎の話を取り上げてみたい。「桃太郎が鬼ヶ島で、猿、犬、きじと協力して、鬼を退治した。」
 
まんが日本昔ばなし「桃太郎」
https://www.youtube.com/watch?v=5Gb7p2DYO9s
 
これは事実である。ただ、その事実を解釈するためには、フレームが必要である。どんなフレームを用いるかによって解釈の仕方は全く異なることになるだろう。いくつかのフレームをはめて考えてみたい。
 
 
(3)言語化のためのフレーミング作業
 
フレーム1:勧善懲悪
これは世間で語られている桃太郎物語なので割愛する。
 
フレーム2:性悪説
本来人間には邪悪な心が備わっていて、それを克服するために苦労して次第に良くなろうとしていると仮定する。鬼はその人間の象徴であり、実は鬼ヶ島で自らを鍛えていた。自分の醜悪さな心と見た目を少しでも良くしようとするが、どうしても怠惰な生活を送ってしまう時もあるし、誰かが嫌がることをしてしまうこともある。すると、ある日その噂を聞きつけた桃太郎とかいうおせっかいなやつが仲間を引き連れて俺のことをとっちめにきやがった…
 
フレーム3:仲間と協力することの大切さ
仲間と協力をすることは大切である。桃太郎は鬼ヶ島に鬼を退治に行く際、吉備団子を大事にして自分ひとりで鬼を退治するという方法もとれたはずだが、猿、犬、きじを仲間として迎え入れた。彼ら・彼女らが桃太郎にとっては心強い味方となった。仲間がいることは大切である。
 
 
フレーム4:鬼はなぜ?
鬼はなぜ村や森で悪さをする必要があったのだろうか?鬼自身が食べ物に困って止むに止まれず村を襲うしかなかったのかもしれない。昔話としては楽しんで悪さをしたように描くが、本当にそうなのだろうか?
 
 
このように1つの現象の中に、幾つもの読み取り方がある。どのフレームでそれを読み取るかは人によってまちまちである。
 
(4)動きを観る・環境を観る
 
わたしが園にお邪魔する際、先生方に「ここからどうすればよいか?」という質問を受けることが多い。もちろん、わたしなりにお伝えできることはするのだが、それが唯一とは思っていない。その理由は上記の話からお分かりだろうと思う。わたしにはわたしのフレームがある。そして、先生方には先生方のフレームがある。わたしは自分に見えることをお話しするが、そこで起こった出来事を日頃見ているのは先生方である。先生方がその現象をどのように捉え、子どもたちに何を願うのかを考えていたくことが大事である。
 
その時に大切なのは、まず子どもたちの動きを観ることではないだろうか。子どもたちが何をしているのか、なるべく価値判断を入れずに観ることを心がける。子どもたちが何をしているのか?何をしようとしているのか?遊びがどのように変化しているのか?そこから判断をして、環境を理解することで、環境をどのように変えていくのがベターなのかをみつけることができるように思う。
 
そのためにも、まずは「自分がどういうフレームを持っているか」に気づくこと、そして「動きを客観的に、価値判断を抜きに観ようとするフレーム」を持とうとすることが求められる。そのことから、「観る」という行為が始まるのではないだろうか。
 

保育者支援ネットワーク「保育のみかた」運営責任者

博士(教育学)

保育コンサルタント

園庭づくりコーディネーター

[著書]

『ワクワクドキドキ園庭づくり』(ぎょうせい)

『遊びの復権』(共著)(おうみ学術出版会)

保育者の「相互支援」と「学び合い」の場

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