ありのままを観る

 

 

 

(1)ありのままがあるところ

 

みなさん、『ありのままがあるところ』という本をご存知ですか?

しょうぶ学園という障がい者施設の施設長である福森伸さんが書かれた本です。

 

この本の読みどころは無数にあります。

しょうぶ学園は知的障がい者の施設だけど、幼稚園・保育園・こども園にとっても参考になることがたくさん書かれています。

 

ここで紹介したいのは

50ページに書かれている以下の一節です。

 

「こうでなければならない」という価値観や考えは自分自身にはともかく決して他人に向けてはならない。

 

(2)教育の原罪、ふたたび

 

先週、『教育の原罪』というコラムを書きましたが、

この本でも、冒頭で福森さん自身のかつてのあり方を素直に、隠すことなく書いておられます。

教育者の多くが抱えている「原罪」を率直に告白されています。

50ページの想いに至るまでのご経験とご自身が気づいた過ちをありのままに書いてくれています。

 

例えば「はじめに」ではこんなことも書かれています。

 

過ぎた月日を振り返ると、かつては少しでも利用者が幸せになればと思っていながらも、それが彼らの生き様に余計な手出しをすることでしかなかったのだと思い至る。社会のルールや常識に囚われ、自分が正しいと信じている、世間で言う「ノーマル」に彼らを近づけようとしてきたと知る。

 

 

教育をしていると目的地に向かって、目標を持って進んでいくことが重要であり、

その活動を通して園児・児童・生徒・学生を鍛えていくことが大切であることが信じられています。

私も、大学教員としては、そのことを信じて疑わなかったし、

いまでもそのこと自体は大切なことだと思っています。

 

だけど、目標に向かって努力できる人ばかりじゃないということも理解できるようになったし、

それができないからといって成長しないのか?

と考えると全然そんなことはないということにも気づきました。

 

目的を持って生きるべき

目標に向かって努力するべき

〜ができるようにならなくてはならない

 

というのは、教育に携わるようになった人間が思い込んでいるだけの、ドグマなのかもしれないのです。

 

(3)その時、その瞬間を味わう

 

私は山の中にいる時間が好きです。

山に登るのが好きというよりは、森の中で歩いていることが好き。

だから、頂上を目指すこともあれば、目指さないこともあります。

 

山の中を歩いていて、よく感じることなのですが、

頂上を目指して歩くと頂上までがすごく長く感じるんですよね。

あとどのくらい?ってつい思っちゃうんですよね。

 

でも、今日は頂上を目指そうかな?それとも、目指さずにブラブラしようかな?

って思っていると、結果的に頂上に着いたとしても、時間が長く感じないんです。

 

時間的(コースタイム)には前者の方が圧倒的に早いんですよ。

でも、後者の方があっという間に到着した感覚に陥ります。

後者の山行は周辺を見ながら、鳥たちのさえずりに耳を傾けながら、

水の流れを眺めながら、虫たちの作業に心を奪われながらのウォーキングです。

目標がなく、目の前のことだけに集中している山行です。

 

こんな時、私は

目的や目標のことばかりではなく、

いま目の前にあることだけに目を向ける。

ということの大切さを実感するのです。

 

(4)素朴に子どもを見るということ

 

保育現場において、先生方は園児がしていることを「すごい」とか「えらい」などと

つい評価したくなります。

また、「こういう風にすれば、もっと良くなるよ」と提案したくなります。

 

でも、それは本当に園児がやりたいことなんだろうか?

園児があなたに合わせてくれているだけじゃないだろうか?

 

園に来て何もしないでボ〜っと外を眺めている園児がいたら、

先生はどうしますか?

やっぱり、「外に行かない?」とか「〜ちゃん、何もしないの?」って

声をかけちゃいますよね。

「あ〜、何もしてないな〜」と見ているではダメだと思ってしまう、

もしくは先輩から「何で声をかけないのか?」と指摘されてしまう。

 

でも、本当に見ているだけではダメなのだろうか?

素朴に園児を見るということは

ありのままの園児を見るということのはず。

 

「あ〜、今日は何もしないんだな」と見ることが大事なのではないでしょうか。

「やりたいのに、(何らかの理由で)できない」

というのであれば話は別かもしれません。

でも、そうではなく、もしかしたら今日は心が動いていないのかもしれません。

そこを見極める力こそ、先生の専門性ではないかと思うんですが、いかがでしょうか?

 

目的や目標を持った活動が悪いと言いたいわけじゃありません。

それも大事です。

一方で、ありのままの園児の姿を観て、受け入れて、

その心持ちについていく大人の存在がベースにあることが大事なんだろうと思います。

 

先生はどう思いますか?

 

保育者支援ネットワーク「保育のみかた」運営責任者

博士(教育学)

保育コンサルタント

園庭づくりコーディネーター

[著書]

『ワクワクドキドキ園庭づくり』(ぎょうせい)

『遊びの復権』(共著)(おうみ学術出版会)

保育者の「相互支援」と「学び合い」の場

〒524-0102 滋賀県 守山市 水保町1461-34 

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